■ 天舟童話「プレゼントの魔法}2020.6.11

ある遠い所に小さな国がありました。
その国の王様はプレゼントをすることが大好きでした。
プレゼントをすると、その人は素敵な笑顔を見せてくれるからです。
王様はこの笑顔がなによりも大好きでした。
王様自身がとても幸せな気持ちになれるのでした。
王様はお城のベランダで、美しい夕日を眺めながら、今日の幸せを思い出すのが大好きでした。

王様は今日もプレゼントをする相手を探しに村へ出かけました。
でも、きょうはプレゼントをもらってくれる人が見つかりません。
王様は疲れて、だんだんお腹が空いてきました。
すると、とても良い匂いがしてきました。
それは、パンが焼けるときの匂いです。
その匂いに誘われるように、小さな農家の前にきました。
パンのいい匂いは、この家の中から流れてきます。
王様は、そーつとドアを開き、覗き込みました。
するとパンを焼いていた農家の奥さんが言いました。
「あら、王様。ちょうどパンが焼きあがったところです。さあ、お召し上がりください」と言って、熱々のパンとおいしい自家製のミルクを出してくれました。
王様は、あっと言う間にパンを食べ、ミルクをゴクゴクと飲み干して言いました。
「ああ、おいしかった。あなたのパンは本当においしい。ぜひ国民のみんなに食べさせてあげて欲しい」
「でも、王様。こんな小さな焼き釜では私の子供たちと王様に召し上がってもらえるだけしか焼くことができません」と農家の奥さんは言いました。
そこで、王様はこの農家の奥さんに大きなパン焼き釜と素敵なお店をプレゼントしました。
農家の奥さんは、王様のプレゼントにびっくりして、何度も何度もお礼を言いました。
「王様、私はこのパン焼き釜と素敵なお店で、みんなを幸せにすることをお約束します」
王様はうれしくて、たまりません。
農家の奥さんの何百倍も喜びました。

農家の奥さんは、このお店に「王様のパン屋さん」と名前を付けました。
王様のパン屋さんは人気のお店になり、毎日大繁盛しました。
農家の奥さんはたくさんの職人を雇い、王様のパン屋さんはますます大きくなりました。
そして、農家の奥さんは大金持ちになりました。
農家の奥さんは、儲けたお金で国中にパン屋さんをたくさん開きました。

王様はお城のベランダで夕陽を眺めながらパンを嬉しそうに食べました。
今日はとても良い笑顔を見ることができたので、王様は幸せでいっぱいでした。
今夜の夢は、おいしいパンを食べている夢でしょうね。


次の日も王様はプレゼントする相手を探しに行きました。
小さな村に入ると、カーン、カーンという金属を叩く音が聞こえてきました。
王様は音のする小さな小屋をのぞきました。
若い鍛冶屋が汗まみれになって、重い槌を振り下ろしていました。
そして、壁を見ると美しい剣が飾ってあります
王様はその剣の美しさに感心して、若い鍛冶屋に尋ねました。
「これは素晴らしい。お前が作ったのか?」
すると若い鍛冶屋は仕事を続けながら答えました。
「はい、私一人で作りました。もっと使いやすい包丁などもたくさん作ってみんなに喜んでもらいたいのですが、ここは狭いし、私一人なので、無理だと諦めています」と残念そうに言った。
それを聞いた王様は若い鍛冶屋のいうことに感心していいました。
「私がお前に大きな工場をプレゼントしよう」
若い鍛冶屋は驚いて、槌を打つことを止めて、王様の方を見ました。
「王様、ありがとうございます。みんなが喜ぶ素敵な包丁を作ります」
若い鍛冶屋は喜びいっぱいの笑顔で答えました。
王様もうれしくて、たまりません。
若い鍛冶屋の何百倍も喜びました。

今日も王様はお城のベランダから夕陽を眺め、若い鍛冶屋を思い出しながら幸せを味わっていました。
そして、幸せいっぱいで眠りにつきました。
きっと、若い鍛冶屋の美しい剣を持っている夢を見たことでしょう。

大きくなった鍛冶屋

王様に大きな工場をプレゼントしてもらった若い鍛冶屋は、たくさん職人を雇って、たくさんの仕事をしました。
トンテン、カンテン・・・・
評判の良い鍛冶屋は毎日大忙しです。
そして、たくさんのお金をもらうことができました。
そのお金で、ますます工場を大きくして、もっとたくさんの職人を雇いました。
こうして、王様のプレゼントのお陰で国一番の鍛冶屋になったのです。

ところが、お金がたくさんたまると、若い鍛冶屋の気持ちが変わっていきました。
たくさんの職人に払っている賃金も惜しくなりはじめました。
若い鍛冶屋は、職人に払っている毎月の賃金を下げることにしました。
そうして若い鍛冶屋はすごい大金持ちになりました。
若い鍛冶屋はお金が何よりも大切だと思うようになったのです。

ある日、工場の職人が若い鍛冶屋に言いました
「社長さん、少しだけでもいいですから賃金を上げてください。今のままでは家族を食べさせていくことができません。もうすぐ子供が産まれます。お願いです」
職人は、床に座りこみ、頭を床にこすりつけて、涙を流してお願いしました。
「わかった。考えておくよ」と言って、職人を返しました。
しかし若い鍛冶屋は職人の賃金を上げる気などはなかったのです。
若い鍛冶屋は、少し同情しましたが、お金が減ることはとても嫌だったのです。


王様のプレゼントのお陰で、国は栄えて、お金持ちもたくさん増えました。
しかし、王様は憂鬱でした。
みんなが豊かになったので、プレゼントをする相手が見つからないのです。
お金持ちになった国民は、欲しいものは自分で買えるようになったのです。
もう、王様にプレゼントしてもらう必要もなくなったのです。
王様も随分長い間プレゼントをしていないのです。
だから、みんなの笑顔も見ていないし、王様も笑うことがなくなったのです。
王様は今日もお城から夕陽をつまらなさそうに見ています。
嬉しいことがない日の夕日はとてもさみしく見えます。
もう国を見て回ることもなくなりました。
良い夢もしばらく見ていません。
可哀そうな王様です。

買い物禁止令

ある朝、王様は勢いよくベッドから飛び起き、大きな声で叫びました。
「大臣〜、すぐ来てくれ。良いことを考えたぞ」
大臣は慌てて、王様の所に飛んできました。
「大臣、これを国中の民に伝えよ」
そう言って、大臣に一枚の紙を渡しました。
王様は顔中いっぱいに笑顔を浮かべています。
大臣は、大きな看板を国中に建てました。
その看板にはこう書いてありました。
「自分のための買い物は一切禁じる。犯した者は厳罰にする。」
そして、大きな文字の下に青い文字でこう書いてありました。
「ただし、プレゼントのために買うことは認める」

国民は少し悩みましたが、すぐに笑って言いました。
「なんだ。誰かに頼んで買ってもらえばいいじゃないか」
みんなも「そうだ!そうだ!」と言って安心して笑いました。

役人が大きな声で、威厳をもって叫びました。
「誰かに買い物を頼んだり、お願いしたりした時は、自分のための買い物として厳罰にする。家族のための買い物の自分の為と同じとする。これは王様の命令だ」

国民は困り果てました。
もう自分のものを買うことができないのです。
食事の材料も買うことができないのです。
もちろんお菓子だって買うことができないのです。
子供たちはお腹を空かせて泣き始めました。
お母さんも子供と一緒に泣き始めました。

その時、コンコンとドアを叩く音がしました。
お母さんは誰だろうと思いました。
お金持ちになってからは、他人と付き合うこともなくなっていたのです。
家は工場の敷地に建っているので近所の人もいません。
お母さんは恐る恐るドアを開けました。
そこには、おいしそうに湯気をあげているシチューを持った女性が立っていました。
お母さんはおいしそうなシチューだけを見つめています。
シチューのいい香りを嗅ぎつけた子供たちが飛んできました。
シチューを持った女性が言いました。
「子供の声を聞いて可哀そうになって、粗末な材料しかありませんがシチューを作りました。私からお子さん達にプレゼントです」
そう言って、お母さんに温かいシチューを手渡しました。
「わあ、プレゼントだぁ!シチューだぁ!」
子供たちが大きな声で言いました。

その時、お母さんは初めて女性の顔を見ました。
それは、子供が産まれるから賃金を上げて欲しいと言ってきた職人の奥さんだったのです。
しばらく呆然としていたお母さんは、我に返って言いました。
「ありがとう、ちょっと待っていてね」
そう言うと、台所に走って行き、ありったけの肉やら、野菜やら、果物やらを抱えてきて、その女性に渡して言いました。
「これは私からあなたの家族へのプレゼントです」
持ち切れないだけの食べ物を抱えて、その女性は驚きと感動とうれしさで涙に溢れていました。


 自分の買い物禁止令が出てから、国民は困ってしまいました。
国民は王様が大好きだったので、王様の命令に逆らうことはできません。
国民はみんなで考えました。
どうやったらプレゼントをもらえるのだろう?
いままで、プレゼントをあげたことはなかったし、もらったこともなかったのです。
だって、お金持ちになってからは、欲しいものはいつでも好きな時に買えたのです。
だから、何かを買って貰いたいということも、誰かに何かをあげたいということも考えたことがなかったのです。
自分の事しか考えなかったから、本当のプレゼントなんてしたことがなかったのです。
役人の言うことには、プレゼントは本当にあげたいと思わない限り、プレゼントとして認めてもらえないのです。

誰も買い物に来なくなった町はさみしくなりました。
ある日、何もすることのなくなった男は、朝から通りの掃除をしました。
いままで誰も掃除をしなかったので、町はゴミだらけになっていたのです。
どうしたらプレゼントがもらえるのかなと考えながら掃除をしていました。
でも、良いアイデアはぜんぜん思いつきません。
もう、通りのゴミはなくなり、気持ちのいい通りになりました。
それでも、男には良いアイデアが浮かびません。

それを見ていた老人が声を掛けてきました。
「いやぁ、若いのに感心だ。これはワシからのプレゼントじゃ」
そう言って、大きなパンとたくさんの果物を渡しました。
パンと果物は近所のお店で買ってきたものでした。
自分のものは買えないけれど、プレゼント用なら売ってくれるのです。
掃除をしていた男は思わぬプレゼントに大喜びして、家族の待つ家に飛んで帰りました。
それを見ていた老人はつぶやきました。
「プレゼントするってこんなに気持ちの良いことなのだ」
もう顔中をシワシワにして喜びました。

それを見ていた近所の奥さんが言いました。
「じいさん、感心だね。これは私からのプレゼントだよ」
そう言って、近所の酒屋で買ってきたおいしいワインを渡しました。
老人も近所の奥さんも笑顔を浮かべながら泣いています。
「これがプレゼントなのだね」
「そう、これがプレゼントだよ」
国民は王様がプレゼントをすることが好きな理由を初めて知ったのでした。

こうして、国中にプレゼントの輪が広がり、いつもの日常生活に戻りました。
欲しいものがあると、誰かが見ていて、プレゼントしてくれるのです。
みんながプレゼントする機会を探しているのです。
みんなが笑顔でいます。
プレゼントをもらった人もプレゼントをする人も笑顔です。
自分で買うよりも何倍も何百倍もうれしいのです。
リンゴひとつでも宝物のように嬉しいのです。
プレゼントのおもちゃを粗末にする子供はいません。
国中は宝物と優しさで溢れています。

もうこの国には意地悪をする人はいません。
もうこの国には自分勝手な人もいません。
もうこの国にはえばる人はいません。
だって、プレゼントしてもらえなかったら、何も手に入らないのですからね。


この様子を見ていた王様は言いました。
「ああ、またワシがプレゼントする相手がいなくなった」

でも、今度はとても嬉しそうでした。

作者より

世の中はコロナウイルスの所為でギスギスしてしまいました。
大変な時だからこそ、人の優しさも見えてきました。
親子でゆっくり語り合える時間もいっぱいです。
子供はプレゼントを当たり前のようにもらっています。
というより、プレゼントだけの世界にいます。
当たり前と思っていることに、親の想いや人の想いがいっぱい詰まっていることを知って欲しいと思いました。
そして、プレゼントをあげる方も、考える機会になればと考えました。
世の中には素晴らしいことがいっぱいあります。
嬉しいことでいっぱいがあることに、もういちど気が付いて欲しいと考えました。

物語で出てくる王様とはご両親自身です。
子供の成長を願っているのに、プレゼントをあげただけでは「若い鍛冶屋」のように目的を見失ってしまうかも知れません。

この世界には「思いやり」と「嬉しさ」という無限の宝物で溢れています。
プレゼントの魔法を思い出していただければ幸いです。


2020年6月  はこび天舟

お願い この物語を絵本にしてくれる作家さんを探しています。
Email : nakakou053@icloud.comtrf


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